思い出その8

 近所に、何でも売っている小さなお店がある。惣菜、野菜、お菓子、お酒類、うどんなどの食料品、封筒、便箋、祝儀袋、鉛筆などの文房具、シューズまで置いてある。
 小学校低学年だったある日、私はそのお店にビール買ってくるよう父に頼まれた。当時はまだ缶ビールがなく、ビンである。ビールを一本持って帰る途中転けてしまい、せっかく買ったビールを割ってしまったのだ。流れ出す泡はまだ脳裏に残っている。泣きながら帰った私に、父は、「怪我をしなくてよかった」と笑いながら言ってくれた。
温かい父の笑顔と声は、流れ出す泡と共に忘れることはない。